2020年3月30日、最高裁判所第一小法廷は、
「歩合給の計算に当たり売上高等の一定割合に相当する金額から
残業手当等に相当する金額を控除する旨の定めがある賃金規則に基づいてされた残業手当等の支払により
労働基準法37条の定める割増賃金が支払われたとはいえない」と判断しました(国際自動車最高裁判決)。

国際自動車とはタクシー会社ですが、同社では、形式上残業代を支払うことにはなっていましたが、
歩合給の計算の際に残業代と同額を差し引くこととされており、
賃金の総額では残業代があってもなくても同じ金額しか支払われず、
実質的には残業代を支払っていないのと同じ賃金体系をとっていました。

この賃金体系について、最高裁は、
会社の主張する残業代が法律(労基法37条)が要求する残業代の支払いとして有効になるためには、
会社が主張する残業手当が「賃金体系全体における当該手当の位置付け等にも留意」しつつ
「時間外労働等の対価として支払われていることを要する」という判断基準を示しました。

その上で、国際自動車の賃金体系は、実質的には、歩合給の一部に残業代を組み込むものであり、
残業代として支払われる賃金のうちどの部分が時間外労働の対価に当たるか明らかでないとして、
このような残業代の支払いは、労基法37条の要求する残業代の支払いとして有効とはいえない(無効である)という判断をしました。

賃金規定を巧妙に作成して、形式的には残業代を支払っているように見せかけつつ、
実質的には残業代の支払いを免れようとする企業は、後を絶ちません。

残業代を基本給の一部や何らかの手当に組み込んで支払おうとする固定残業代も、
そうした残業代逃れの手段として極めて多くの企業に利用されているスキームです。

この国際自動車事件の賃金体系も、悪質な固定残業代の一つです。
同様の賃金体系は、タクシー会社、トラック等の運送会社で広く用いられています。
こうした悪質な賃金体系を無効とした国際自動車最高裁判決の意義は大きく、
今後、固定残業代を用いる多くの企業に対する残業代請求で活用できる判決と言えます。