入社以来、通常の手当として支給されていたものが、ある日から,「○○手当は残業代とみなす」といった形に賃金規定が書き換えられたり、その旨の承諾書に署名させられたりしたことはありませんか?

このように、これまで残業代ではなかった手当が、賃金規定の変更や承諾書の作成などにより、固定残業代に変更してしまうことの有効性について、ご説明したいと思います。

まず始めに、給料・賃金の額などの労働条件を労働者に不利益に変更することは、原則として禁じられていて、労働者の同意なしにはできないとされています(労働契約法9条)。

冒頭で述べた、これまで残業代ではなかった手当を残業代と変更するという労働条件の変更は、その手当の額の分だけ、本来支払われるべき残業代が減ってしまうだけでなく、その手当分給料が減らされたのと同じ効果を持ちますので、労働条件の不利益変更に当たります。

そのため、冒頭のような事例は、労働者の同意がない限り、無効となります。

しかも、給料・賃金は、労働者にとって極めて重要な労働条件ですので、裁判例上、労働者の「自由な意思に基づく同意」がない限り、上記のような不利益変更は無効であるとされています(ジャパンレンタカー事件・名古屋高裁平成29年5月18日判決)。

「自由な意思に基づく同意」とは何かと言いますと、「○○手当は残業代とみなす」といった契約書や承諾書に、労働者がその意味もよく分からないまま形式的にサインすれば同意として有効になるわけではないという意味です。

つまり、その契約書や承諾書にサインをすれば賃金が減額になってしまうことやそのような契約書・承諾書を作成しなければいけない理由について、会社が詳細に説明した上で、労働者が心から納得してサインをしたような場合でなければ、その同意は有効にならない、ということです。

以上の通り、これまで残業代扱いではなかった手当を後から残業代扱いにすることには、厳しいハードルがあり、簡単には有効になりません。

無効となった場合は、その手当相当額の残業代の支払がなかったことになりますので、その分残業代が未払になっていることになります。