固定残業代と公序良俗違反

「○○手当は××時間分の残業代に相当する」というのが典型的な固定残業代の規定です。
この規定が簡単に有効になるわけではないことは本サイト本文でも説明した通りです。
ところで、この「××時間」に、例えば100時間といった非常に長い時間を組み込めば、
100時間働かせても○○手当以外に残業代を支払う必要がなくなり、会社からすれば残業代を払わずに働かせ放題となります。
このようなことは許されるのでしょうか?

80時間とか100時間といった残業は、いわゆる過労死ラインとして、労働者に生命・身体に大きな危険を及ぼします。
そのような、残業を日常的に許してしまう上記のような規定を有効としてしまえば、過労死を助長してしまいますので、無効とすべきです。
裁判例上も、基本給には80時間分の残業代が含まれているとされる事案について、
「このような長時間の時間外労働を恒常的に労働者に行わせることを予定して、
基本給のうちの一定額をその対価と定めることは、
労働者の健康を損なう危険のあるものであり大きな問題があると言わざるを得ない」
「(特段の事情がない限り)基本給のうちの一定額を月額80時間分相当額の時間外労働に対する割増賃金とすることは、公序良俗に反するものとして無効」としています(イクヌーザ事件・東京高裁平成30年10月4日)。